Malandragem マランドラージェン
2021年4月7日
僕が今の先生であるM.Camaleão(メストレ・カマレオン)に出会ったのは2011年秋ですが、その当時はまだ前のグループに所属していました。
その後、M.Camaleãoの行っているカポエイラの活動にどんどん魅かれ、前のグループを抜け、M.Camaleãoに師事するようになったのが2014年です。
2014年秋、僕はグループの活動やM.Camaleãoのカポエイラを学ぶために本部であるフランスのマルセイユに行き、M.Camaleãoの家にしばらく滞在していました。
M.Camaleãoがカポエイラの中で最も大事にしているのがMalandragem(マランドラージェン)であり、それを直接学べるのは、僕にとって特別な機会でした。
滞在中の1日の生活はこんな感じでした。
朝起きたらまず楽器作りです。
ちなみに朝ご飯は食べません。これは前の食事から最低12時間以上何も食べない時間を作ることによって、内臓を休め、筋肉の回復にエネルギーを使うという考えからだそうです。
晩ご飯がどうしても遅い時間になるので、その分、朝ご飯は食べてない生活スタイルでした。
ビリンバウやアゴゴなどカポエイラで使う楽器の作り方を学び、滞在中に5本くらいはビリンバウを作りました。
僕が楽器を作っている間、M.Camaleãoはせっせとご飯作りです。
M.Camaleãoの料理の腕前は相当なものです。
リオ・デ・ジャネイロ時代にはレストランをやっていた時期もあるそうです。
昼ご飯を食べたら買い物に出かけます。
買い物では良いものの見極め方、同じものでもスーパーによって値段が違うこと、また地域によっても値段に差があることを熱く語りながら、色んな場所に連れて行ってくれました。
その後、自由時間。
夕方、少し腹ごしらえをして、歩いて20分ほどのアカデミアに練習に出かけます。
動き、楽器など一通り練習したら晩ご飯を食べて家に帰ります。
ちなみに週に1回は練習中にM.Camaleãoがせっせとご飯を作り、練習後にみんなで食べます。
家に帰るのは毎回だいたい11時を回るのですが、夜道の歩き方も練習の続きでした。
初日、家に帰るのにメイン通りの明るい道を歩かず、わざど遠回りをして、暗い道に向かったときはびっくりしました。
ブラジルほどでないとはいえ、フランスで最も治安が悪いと言われるマルセイユです。
何でこっちの道から帰らないのかと尋ねると、M.Camaleãoはまあ落ち着けと暗い道の入り口のバーに入り、瓶ビールを2本買って1本を僕に渡しました。
僕はほぼ酒を飲まないと言いましたが、飲まなくてもいいから手に持っておけと言われました。
暗い道を歩いていくうちに僕は不安からか、普段にはないペースでビールをどんどん飲んでいました。
飲み終わったビールをゴミ箱に捨てようとすると、家に帰るまで絶対に捨てるなと言われました。
僕が道の端の狭い歩道を歩いていると、道の真ん中を歩けと言われました。
「路地に引き込まれるぞ。車が通らなければ道の真ん中を歩け。その方が視野を広く保てる。」
車が通るときはと尋ねると、「人が乗っていない側にギリギリ車が通れるくらいに避ければいい。両サイドに人が乗っているときは腕が届かない距離だけ避ければいい」と答えが返ってきました。
前から二人組が歩いてきました。
「まずこの距離であいつらが悪いやつかどうかを見極めろ。悪そうなやつらであれば逃げる。後ろからももし仲間が来て挟み撃ちにされたときは戦うしかない。その時は手に持っているビール瓶を割って武器として使え。もし、とうてい勝ち目がなさそうだと判断したら気が狂った人になれ。よだれをたらし、鼻くそをほじり、奇声を発しろ。そんなやつにだれも構いたくないだろ。」
こうして毎晩、暗い道を通りながら帰りましたが、幸い危ない目に合うことはありませんでした。
M.Camaleãoは言いました。
「カポエイラは練習の中だけで身に着けられるものではない。生活のすべてなんだ。どのように自分の人生をうまく生きていくか、それこそがカポエイラなんだ。」
Malandragemはカポエイラの中の大事な要素の一つとされ、色々な解釈があるとは思いますが、僕はM.Camaleãoから教わった「上手な生き方」と解釈しています。
現在行われているカポエイラには多くのスタイルがありますが、その多くはルールというものをきちんと設けていません。
なぜならば、カポエイラでは、その状況その状況において、自分でルールを作る力が求められているからです。
自分は今どのような状況に参加しているのか?自分のグループなのか他のグループに来てるのか?またはストリートに参加しているのか?
またどんな相手とやっているのか?大人なのか子どもなのか?ベテランなのか初心者なのか?
常に自分でやり方を変え、その状況によってもっとも評価されるようなカポエイラをする力が求めれています。
これこそがMalandragemなのです。
日常生活においてもそうです。
自分が置かれた状況によって常にやり方を変える力が求められているのです。
どんな状況においても当てはまるルールやマナーなどありません。
最後に、ちらっと聞いただけの話なので、正確な話かどうかは知りませんが、すごく良い話だと思ったものを紹介します。
とてもマナーに厳しいと思われている国であるイギリスの王室に招待されたお客さんが、エリザベス女王と食事をしているとき、食事のマナーをあまり知らなかったその客は、各自に置かれた手を洗う用のボールに入った水を飲んでしまったそうです。
すると即座にエリザベス女王もそのボールの水を飲んだそうです。
マナーを知らないお客さんに恥をかかせないための、エリザベス女王のMalandragemですね。
カポエイラ目黒道場
渡部 健志(Mão de Onça)